『三鷹天命反転住宅 イン メモリー オブ ヘレン・ケラー』たてもの見学会


楽しみにしていたこの日がやってきた。荒川修作+マドリン・ギンズの住宅見学会。HがさんとJR中央線武蔵境駅にてまちあわせ。Rとともにむかう。バスにゆられて10分ほどで最寄の停留所に到着。交差点をわたると東八道路沿いに周りと全く色使いの異なる建物があらわれ、一目で天命反転住宅とわかる。


受付を済ませるとスタッフの案内で301号室に。中に入ると20人くらいの参加者が思い思いに内部をすでに見学していた。

まず驚くのは内部の色彩の多様さ。14色使用し、6つの色が一度に視界に入ってくるように設計されているらしい。6色あれば脳がおのずと色のバランスをとり特定の色に過剰に反応しなくなるからだという。同じ色を使って外観も塗ってあるから幼稚園のようなカラフルさ。

そして目を疑うのがその間取り。一般的には3LDKと紹介しているらしいけれど家の中央に円を描くようにキッチンが配されてる。家の四隅にはそれぞれ球体と四角体の部屋が設置してある。2つある四角体は、一方は円形の畳が敷いてあり、畳から窓まで石が敷き詰められている。またもう一方はカーペットが敷いてある四角い箱。球体のひとつは完全な球でその内部がくり抜いてあるような構造。瞑想の間と勝手に名づけてみる。もうひとつは、真ん中に筒状のシャワールームがあり、その裏側にトイレがある。窓側に面し、これといった仕切りもないトイレ。伊豆での経験がなかったらそうとう面食らっていたと思う。極めつけが床全体がでこぼこで平面なところがない(正確に言うとほとんどない)ということだ。

体験後、学芸員から説明をうける。内部について。でこぼこ床は実は5パーセントの傾斜がついているそうだ。その上、天井にも実は傾斜がついていて、両端の高さが異なり遠近感が誇張されるよう設計されているという。本当に驚き。瞑想の間は、音の部屋と呼んでいるそうで高さによって音の反響がちがう。室内にははしごがあり、それに上ってみたり、天井にフックがたくさんついているので吊って収納したり、インターホンの画面が斜めになっていたりする。床のでこぼこは、大人の足の土踏まずの大きさと子供のものの2サイズあり裸足で歩いて感じてほしいそうだ。
そう、この住宅になぜヘレン・ケラーの名があるかというと、彼女のように体をつかって自然・環境を感じ取ってほしいからだという。そのためのアイデアがここにはたくさんつまっている。
構造上の話。設計を請け負った安井建設設計事務所にとっても、施工主の竹中工務店にとってもすべて前例のない仕事だったので、2人に逐一確認を取り、試作を繰り返し、建てたのだという。この建物自体、柱というものがなく、大きな土管にみえる部屋のパーツを積み上げて、柱の役目をさせたのだという。屋上にものぼらせてもらい、構造を確認する。周りは緑が多く、規制があるので高い建物がなく遠くまで見渡せた。

その後1階の事務所に移動し、実際どのように使っているのかをみせてもらう。部屋の入り口がすべて家の中央にむいているので、一体感があり生活者の距離が近くなるように感じた。荒川氏のいう建築する身体、環境を全面的に感じる身体を建築によって獲得させようという試みは、1994年の『遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体』、1995年の『養老天命反転地』から一環してかわらない姿勢である。次にテーマパークとしてではなく日常からかえていきたいという思いで住宅をつくった。思い出すのは『天命反転都市』構想である。東京の豊洲計画で特別賞に選ばれ、1998年のICCでの展覧会でみたあの模型のことだ。車は中に入れず、地下の駐車場に。地上は平面がなく住宅と住宅がスロープでつながっている都市。事務所にひっそりとおいてあったけれど、あれが実現する日はくるのだろうか。

建築する身体―人間を超えていくために

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