『表参道のヤッコさん』

HON用に書評書く。Rの助言により大分まとまりが出た。
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日本のスタイリストの草分け的存在である「ヤッコさん」こと高橋靖子が60〜70年代にかけて出会った仕事、アーティストにまつわる回想録。まだスタイリストという職業がなくロケハンや小道具の調達を含めた雑用をしながら、手探りで仕事をし、世界で活躍するスタイリストになっていくまでのストーリーである。
当時の表参道には、山本寛斎伊丹十三ユージン・スミスなど多くのクリエイターがあつまっていた。その時の出来事をまるで今ひとつひとつ思い出しているかのようなシンプルな文体でかいている。それは苦労話でもなく、ましてや自慢話でもない。ただ当時の濃厚な時間を共有することで、新しいことにポジティブに向き合い、精一杯仕事を成し遂げていこうとするヤッコさんの姿に感動せずにはいられない。
T・レックスやデヴィッド・ボウイとのやりとりなど、ヤッコさんの興奮がこちらにも伝わってくるようでもっともっとたくさんのエピソードがききたくなる。ライブの前やロケの空き時間に撮られた写真も多く載っていて、作品を通してしか知らなかった60〜70年代のカルチャーがこの本を読んで立体的に感じことができる。半世紀前の昔話ではなく、今につながり共に生きたかのような爽快感を感じさせてくれるのだ。
カルチャーに興味がなくても当時を知らなくても何かに熱中し奮闘した20代のひとりの女性の青春ストリートして十分読む価値がある一冊になっていると思う。

表参道のヤッコさん

表参道のヤッコさん